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Amazonの達人100名がナットクした、良いものだけを厳選紹介。

文学・評論

家族の絆を描いて、ほろ苦さと切なさが胸に迫ってくるタイムトラベル小説 : 地下鉄(メトロ)に乗って (講談社文庫)(本)

2008/6/20 ベスト78レビュアー

4点

 四十代半ばのサラリーマン、小沼真次(こぬま しんじ)が、地下鉄構内で何度かタイムスリップしながら、不仲な父の過去や三十年前に亡くなった兄の死の真相などを知っていくというストーリー。
 
 レトロな懐かしさを漂わせた話の雰囲気。失われていた父親と息子の心の絆が、徐々に再生していく話の展開。ほろ苦く、切ない味わいが、ツボを心得たストーリーテリングに乗って、じわじわっと心の中に迫ってくるところ。作者の初期の作品ですが、さすがに上手いもんだなあと堪能させられました。

 主人公が、地下鉄の駅の不思議な出口で、最初のタイムスリップを経験する件り。文庫本の39頁。その辺からですね、話にすーっと引き込まれていったのは。ノスタルジーとファンタジーとを掻き立てるその記述に、「あ。いいなあ」と。

 地下鉄通勤者のなかでも、特に、銀座線を利用する方々におすすめしたいタイムスリップ小説。次の文章なんか、実に素敵でぐっとくるじゃないですか。

<喪われた時代の哀しみと安らぎは、永久にこの小さな地下の世界に封じこめられている。これはサブウェイでも、アンダーグラウンドでも、メトロでもない。昭和二年からまっすぐに東京の闇を駆け抜けてきた「地下鉄」なのだと、真次は思った。(ちかてつ)、と胸の中に平仮名で書くと、おとぎ話のマッチのように哀しく暖かい灯が心にともった。>(文庫本 p.174〜175)
  2 人中、1 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

世にも優れた女と書いて、女優。 : RURIKO(本)

RURIKO
RURIKO(本)

林 真理子,
発売日:2008/05/30

2008/6/15 hide-bonベスト65レビュアー

4点

今年になって、松田優作、ショーケンと大スターに纏わる凄ぶる面白さを持つルポルタージュや自叙伝に出会えて嬉しいのだけれど、今度は浅丘ルリ子である。これは、浅丘を綿密にリサーチしながら書き上げた林真理子による、“事実に基づいたフィクション”。満州国官吏であった父のもとで幼少期を過ごした満州時代、当時満映の影の支配者として君臨していたあの甘粕正彦から、僅か4歳にしてその美貌ぶりから将来を嘱望されたというエピソードからして、十分神話的で一気に読み切った。以下、日活のオーデションに受かり、調布撮影所に16歳で“入学”、以来映画スターとして、10年で100本!ものプログラム・ピクチャーにヒロインとして出演した彼女の、女優としての軌跡と石原裕次郎や小林旭への思慕や愛が綴られる。過分にゴシップ調な部分もあるが、当時の大スターたちの明け透けな恋愛感覚と意外な貞操観念が窺えて面白い。銀幕のスターと言えども所詮は女性、社会通念としての男性中心主義であった時代での“添え物”扱いは痛切だし、ヌーヴェル・ヴァーグの波押し寄せる頃、監督の蔵原惟膳が彼女に贈った賛辞は、いかにもと思わせる。
浅丘だけでなく、裕次郎や旭。新興映画会社として、ニューアクションや青春文芸路線で若者たちを虜にしていた日活の黄金時代を支えた彼ら、60年代高度経済成長を迎え、娯楽の王道がテレビに取って代わられ凋落の途をたどる斜陽期の日本映画界を生きた者たちの奮闘ぶりと苦悩も描かれているし、浅丘が愛したふたりのスターを巡っての美空ひばりや北原三枝との逸話も印象的。スクリーンのイメージそのままに、理知的で侠気ある浅丘、彼女のファンならずとも、映画ファンは一読の価値あり。
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レトリックが全て : 愚か者死すべし (ハヤカワ文庫 JA ハ 4-7)(本)

2008/6/14 voodootalkベスト8レビュアー

4点

オリジナルは2004年11月リリース。前作『さらば長き眠り』からおよそ9年空いた新作である。この新作の登場には早川書房社長の早川浩の力が大きかったようだ。

読み出すと久しぶりの沢崎の言い回しが懐かしく、それだけでかなり満足できてしまう自分に気がつく。つまり原作品のキモはストーリーではなく、沢崎の独特な(人はこれをハードボイルドと呼ぶわけだが・・・)レトリックにある、ということだろう。9年以上の作品は頻繁に登場する電話のシーンも公衆電話ばかりで、それが作品を古い感じのものにしてしまっていたが、本作ではついに『携帯電話』が登場する。よかった。

ストーリーははっきり言って大して驚かないし、面白いとも正直思わないが、沢崎の態度や言い回しを読んでいるだけで惹かれていく。最後のあとがきの沢崎の確定申告の場面などハードボイルドそのものである。なかなかだ。
  4 人中、3 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

シーナ流思索に耽る旅行記 : 「十五少年漂流記」への旅 (新潮選書)(本)

2008/6/13 竹の梯子ベスト94レビュアー

5点

ジュール・ヴェルヌの「十五少年漂流記」(あるいは「二年間のバカンス」)の舞台となる島にはモデルがあった。しかも最近その定説に異を唱える(「別の島こそ・・・!」)日本人学者が現れた。浅学な私はそんなこと露知らなかったが、今回椎名誠はそのふたつの島に実際に行って真偽を確かめてこようと旅立つ。それが本書の縦軸。そこに「旅は私たちの思考を深めてくれるのではないか」という観点に立って数々の興味深いエピソードを横軸として織り交ぜていく(「漂流記」モノのブックガイドというパッチワークも有)。季刊誌「考える人」に連載されたとあって、抑制された筆致で身辺雑記風なテイストからも解放され、椎名誠の昭和軽薄体に食傷気味な私には大満足の一冊でした。岩波新書から出た椎名誠の本2冊を彷彿とさせる浪漫的好奇心を心地よくくすぐってくれる好著だと思う。この路線を支持致します。
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さすがにストーリーテリングがすばらしい : 長い長い殺人 (光文社文庫)(本)

長い長い殺人 (光文社文庫)
長い長い殺人 (光文社文庫)(本)

宮部 みゆき,
発売日:1999/06

2008/6/12 佐倉ごるふベスト18レビュアー

4点

財布が語っていく構成は、斬新。
宮部氏の作品には、結構、こういう、「直接的には
読者には、みせないで、語りで想像力をかきたてる」という、
手法があって、そこが一層、好奇心をかきたてられて、どんどん読んでいく
うちに・・という、カタルシス的構成が、結構、利いている。

登場人物の心の「ひだ」を、ときどき、ドキッとさせる語り口調、
台詞で、思わず、涙が出そうなくらい(だけど、ぐっとこらえて読み進める)
なシーンが、今回も、随所に。

最後の「落ち」は、論理的な本格推理を期待すると、少々肩透かし
ですが、後の社会派的な作品「理由」「火車」「模倣犯」を考えると、
こういう展開も「あり」かもしれません。

とにかく、最初は「財布がしゃべる?」と、とまどいぎみに読み始める
のですが、そのうち、気にならなくなり、そして、まったく、そんな
設定を忘れてしまうラスト。ぐいぐいと引っ張っていき、徹夜覚悟な
佳作です。人物関係がワタシには、ちょっとわかりにくかったかな。
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楽しみました。有川さんありがとう! : 図書館革命(本)

図書館革命
図書館革命(本)

有川 浩,
発売日:2007/11

2008/6/11 夢追い虫ベスト88レビュアー

5点

これまでは一冊にいくつかの戦いが盛り込まれてたけど、
今回は一冊まるごと一つの戦いが描かれてます。
かつてない大規模な戦いで、その分、郁の活躍度&ムチャ度もハンパないっ!!

4作目ともなると読者ももうすっかり激甘に慣れてしまって、
いくら砂糖を投入されてもついてけます。
むしろ中毒症状の如く、甘さを求めてる、みたいな?

甘さはもちろん「ホテルに泊まった時、化粧水どうしよ〜」みたいな
女にしかわからないエピソードが細かに書かれてあるのも好きなの。
乙女の恋心だけじゃなく、こんなとこまで女子として共感できちゃう。

バカップルって身近にいたり、ナマで目撃すると腹がたつもんだけど、
郁と堂上教官の場合は許せちゃうんだよな〜。

こんなにキャラがしっかりしてて、魅力のある作品ははじめて。
いろんなはじめての気持ちをくれたシリーズでした。大好きですっ!

そして・・・
好きな本が自由に読めるって、本当に幸せなことなんですね。
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落ち着いた週末の午後に・・・ : 恋のかたち、愛のいろ(本)

恋のかたち、愛のいろ
恋のかたち、愛のいろ(本)

唯川恵、小手鞠るい、畠中恵、原田マハ、ヴァシィ章絵、朝倉かすみ、角田光代,
発売日:2008/02/19

2008/6/9 アジアの息吹ベスト86レビュアー

4点

柔らかい雰囲気の女性作家を揃えた
小洒落たアンソロジー、という枠から
一切はみだすことなく編まれた一冊。

予想外の収穫を得ることは無いが
一冊を通して落ち着いた週末の午後に、
読み終えたくなる逸品。
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猫......... : 猫と庄造と二人のおんな (新潮文庫)(本)

猫と庄造と二人のおんな (新潮文庫)
猫と庄造と二人のおんな (新潮文庫)(本)

谷崎 潤一郎,
発売日:1951/08

2008/6/8 recluseベスト66レビュアー

4点

doris lessingにも猫を題材にしたエッセイや作品がいくつかありましたが、猫に魅入られた作家が描く猫の描写はいつも似てくるようです。犬と比較しての猫の非社会性や冷淡さが世間では流通していますが、このような作家による描写は猫それぞれの個性や優しさや思いやりを指摘する点で共通するものがあります。ただこの作品のテーマが、猫を中心として猫の目から見た人間関係の描写と風刺かというと、そうとは言い切れないようです。猫自身は決して独白することなく、猫の様々な行動もこの作品の登場人物である人間のそれぞれの立場から見て状況的に解釈されていきます。猫はあくまでも登場人物の時々の心理を投影した存在のままで、猫の「独善」の本質的な秘密の根源は最後まで不可解なままです。そして作品に落ちはありません。この作品のもうひとつの秘密は関西弁がかもし出す独特の雰囲気です。外来種の猫と関西弁という二つはなんともいえない融合を示しています。今回一部会話の部分を音読しながら読んでみましたが、この関西弁ははたして本当の関西弁なのでしょうか。本来共存し得ないであろう、細かい差異を持つ様々な関西弁の人工的な混合物、つまり作者が新しく自分のイメージの中で作り上げたどこにも現実には存在しない道具と手段としての「関西弁」の印象がぬぐえません。
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心霊研究史入門 : 近代スピリチュアリズムの歴史―心霊研究から超心理学へ(本)

2008/6/7 ソコツベスト60レビュアー

5点

人間の個性は死後も存続し、この世とあの世とは交信が可能である、という基本的前提にもとづく近代の霊的思想・実践である〈スピリチュアリズム〉の通史を、日本の作家が平明に書き綴った本である。主眼は、スピリチュアリズムから派生した欧米の心霊科学の展開にあるが、それに加え超心理学(いわゆる「超能力」研究)の流れや、福来友吉や浅野和三郎などによる日本の心霊科学史に関しても、要をおさえた説明がある。索引も充実しているので、この分野の諸事情に関心のある向きには非常におすすすめできる。
ハイズヴィル事件という決定的なきっかけから、おおよそヴィクトリア朝時代を通して心霊研究がいかなる大発展を遂げてきたのか、その過程を著者は、当時の英国の覇権や近代的な科学や技術の飛躍的な進化(とくに鉄道の開発や電信機の発明が重要)、あるいは社会主義という革新思想との連動や、ダーウィニズムや俗流唯物論といった反宗教的な思想への対抗意識などの時代背景に言及しつつ、詳しく再現していく。特に、当時はまだ新しい職業であった「科学者」たちが、その新たな社会的役割(世界のあらゆる現象の説明者)を果すべく「霊」の調査・研究にも果敢に挑んでいった姿を、克明に描き出していく。心霊研究はあくまでも近代科学の申し子だ、という事実が強く印象づけられるところである。
著者はまた、スピリチュアリズム・心霊研究の擁護者として、「霊」の世界の実在や、それとのコミュニケーションをとることができる能力者たちにもっと共感を抱いて欲しい、と本書を通して示唆し続け、と同時に、厳密な科学的検証をふまえずに安易に「霊」を信じることには懐疑的である。このような著者のスタンスは、俗流の科学(合理)主義に毒されて未知の世界に対する想像力を失ってしまった人間にも、また昨今のスピ現象ブームを何ら批判的な意識も持たずに受用してしまう人々にとっても、学ぶところが大だろう。
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ちょっと上野女史が喋りすぎかも? : ポスト消費社会のゆくえ (文春新書 633)(本)

ポスト消費社会のゆくえ (文春新書 633)
ポスト消費社会のゆくえ (文春新書 633)(本)

辻井 喬,上野 千鶴子,
発売日:2008/05

2008/6/5 Notre Dameベスト61レビュアー

5点

 さて、著者は「消費社会批判」という岩波書店から刊行された本で、博士(経済学)の学位を持っている。その著者と上野千鶴子との対談形式で進んでいきます。上野女史の的確な批評に堤氏(辻井氏)は返答ばかりが多くて、拍子抜けした感じはありますが、西武百貨店を展開してパルコ、そしてバブル崩壊による西洋環境問題に伴う私財の投げだし等、堤氏本人でないと解らないことを対談形式によって柔らかく書かれています。今後の消費社会の行方を占う意味でも本書の意義は大きいものと考えます。もう少し突っ込んだ討論や折角博士の学位を持っておりながら経済学的なアプローチがなされていないところにも不満が残ります。然し、新書なのでそこは仕方がないところなのでしょう。一読の価値はある新書です。気軽に読めます。新幹線で東京−新大阪の移動時間内で読めるほどです。
  23 人中、20 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

超能力者たちの孤独感と同朋意識が生き生きと、スリリングに描き出されている : 七瀬ふたたび (新潮文庫)(本)

七瀬ふたたび (新潮文庫)
七瀬ふたたび (新潮文庫)(本)

筒井 康隆,
発売日:1978/12

2008/6/2 ベスト78レビュアー

4点

 他人の心を読むことのできる精神感応能力者(テレパス)、火田七瀬(ひだ ななせ)を主人公にした三部作、『家族八景』『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』。その第二部にあたるのが本書『七瀬ふたたび』で、七瀬のような超能力を持つ人間の孤独感と同胞意識、彼らを抹殺しようとする国家権力と超能力者たちとの戦いが描かれています。

 七瀬サイドに立つ超能力者として、同じ精神感応能力を持つ男の子、未来を予知できる青年、物体を遠隔操作できる念動力(サイコキネシス)を持つ黒人青年、時間旅行者(タイム・トラベラー)の娘の、総勢五名。特異な能力を持つが故の彼らの孤独感と葛藤、互いに心を許し合える同胞にめぐり会った喜びがリアルに描き出されていて、スリリングな緊迫感がありましたね。なかでも、時間旅行者という超能力者を登場させたことが、話に変化と深みを生み出す上でバツグンの効果を発揮しているなあと思いました。

 <とてもいい書き出しだ。夜汽車で火田七瀬の見た予知場面なのだな、と気づいたとたん――それは最初のページで気づくのであるが――スイと作品の流れに乗っていける。>にはじまる平岡正明の文庫解説文も、作品のツボを押さえたナイスな語り口。読みごたえ、あります。
  4 人中、2 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

おもしろ落語ミステリ : ハナシがちがう!―笑酔亭梅寿謎解噺 (集英社文庫)(本)

2008/6/2 ピエロベスト99レビュアー

4点

『UMAハンター馬子』や『銀河帝国の弘法も筆の誤り』等のSF作品を読んで、すっかり田中啓文のファンになったのですが、作者のミステリは初めて、果たしてどんなもんだろうと読み始めたのですが・・・。登場する人物たちの造形、彼らの小気味よい関西弁での会話などなど、ミステリとしての出来はもちろんのこと、とても楽しく読めました。

上方落語の大看板、笑酔亭梅寿のもとへむりやり弟子入りさせられた不良少年の竜二。この梅寿師匠、芸は一流だが大酒飲みで暴力はふるうは口は悪いはの、とんでもない人物。彼らの周りで起きる事件を解決していく竜二だったが、考えることは逃げ出すことばかり。しかしそのうち、落語のおもしろさに魅せられていき・・・、といった内容の短編七作が納められています。

私は落語が好きなので特におもしろく読めましたが、興味が無いという人でも、あらすじからウンチクまでが書かれているのですんなりと読み進めることができると思います。で、本書を読んで落語にちょっとでも興味を持ったという方は、ぜひ寄席へ足を運んでみてはいかが?
  1 人中、1 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

果たして未来は変更可能なのか、それは読者に託される : フラッシュフォワード (ハヤカワ文庫SF)(本)

フラッシュフォワード (ハヤカワ文庫SF)
フラッシュフォワード (ハヤカワ文庫SF)(本)

ロバート・J. ソウヤー,
発売日:2001/01

2008/5/30 yukkiebeerNo.1レビュアー

5点


 2009年4月、ヨーロッパ素粒子研究所(CERN)で、ある大規模な実験が行なわれる。その瞬間に全世界の人々の意識が数分間だけ21年後の未来へと飛んでしまう。
 研究所の科学者であるロイドは、今の婚約者ミチコとは似ても似つかぬ女性との未来の生活を目の当たりにした。ミチコはといえば、今はまだ生まれていない自分の子どもをみつめている自分を発見する。
 一方、ロイドの同僚であるテオは、何ひとつ未来の自分を目にすることはなかった。それは21年後のその瞬間の直前に、彼が何者かによって殺害されていたからだった…。

 未来の自分をほんの一瞬だけ見てしまったとき、そしてそれが決して自分が期待するようなものではないと分かったときに、ひとはどういう行動に出るのでしょうか。
 未来は固定されて決して取り替えがきかないものであるのだから、これからの努力が実ることは決してないと諦念を抱くのか。
 それとも目にした未来はひとつの可能性でしかなく、これらからの行動次第でいくらでも変更がきくのだと考えて、より良い未来を志向して努力を継続するのか。

 タイム・トラベルSFではタイム・パラドクスをいかにキレイに整理できるかということが常に課題となりますが、このSF小説ではそれはあまり大きな問題ではないような気がします。
 むしろ、「諦念」と「努力」のはざまで、登場人物とともに読者自身がどちらを選択するべきなのか、その解を求めることこそが一番の課題のような気がします。
 
 ロイドとテオという主要人物二人に対して作者のロバート・J・ソウヤーは、「諦念」と「努力」それぞれにふさわしい結末を与えます。それを読んだときに何かが自分の中で生まれる気がする、そんな物語として私は十分堪能することができました。一気呵成に読めるエンターテインメント小説ですが、それだけのものとするには惜しい気がする一冊です。
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今、この本に出会えたことに感謝 : サウスポイント(本)

サウスポイント
サウスポイント(本)

よしもと ばなな,
発売日:2008/04

2008/5/29 夢追い虫ベスト88レビュアー

5点

子供のころに強く強くひかれあったテトラちゃんと珠彦くんの2人が
大人になって再会する物語です。
あくまでメインはこの2人の奇跡のような恋なんだけど、
珠彦くんの家族は一年前に弟の幸彦くんを亡くしていて、悲しみの中で生きている。
私はそちらサイドのストーリーの方に共鳴してしまいました。
私も弟を半年ほど前に亡くしたので、
この家族の悲しみと虚無感は今の私のそれと同じなんです。

今の私の気持ちを代弁し、
この悲しみを納得させてくれるような説得力・安心感がありました。

よしもとばななさんの世界は決してぶれない。
どの作品を読んでも、言っていることはいつも同じ。
何気ない生活の中で何を大切にし、
どこを見つめていくことが幸福へつながるのかを気づかせてくれる。
胸が締め付けられるような、心を震わせる言葉にあふれていて心が洗われる。
ばななさんの本を読むと魂がツルッと磨かれたような気がします。
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映画化を切に望む : マンガ蟹工船―30分で読める…大学生のための(本)

マンガ蟹工船―30分で読める…大学生のための
マンガ蟹工船―30分で読める…大学生のための(本)

小林 多喜二,藤生 ゴオ,白樺文学館多喜二ライブラリー,
発売日:2006/11

2008/5/29 くまベスト39レビュアー

4点

大学生協でこの漫画が売れているんだ、と聞いて読んでみた。
いい所は、原作では分かりにくかった方言を当時の地方性を残す程度に分かりやすい現代語に置き換え、時代性で分かり難いところを、絵の描写ということである程度描くことが出来たところである。結果非常に分かりやすくなった。
 一方で、原作の中の息苦しさ、臭い、そして一番肝心な登場人物の感情が描きこみ不足もあり、不十分。もちろん、ページ数の制限もあるが、力量不足と取材不足もあるだろうと思う。

「蟹工船」をこうやって改めて漫画で見ると、つくづく名作だと思う。ひとつの船の中に、無権利状態の労働者の命をモノとしか見ていない資本家、それを助ける政府陸軍、資本家におもねる労働者たち、そしてやがて労働意識に目覚める底辺の労働者、そして結果的に当時の日本そのものを重層的に描くことに成功している。そして非常に視覚的、映画的なのだ。
抵抗の仕方はだんだんと進化する。途中までは個人で、やがては組織的なサボタージュ、そしてリーダーを中心とした船中を巻き込むストライキ、それを政府陸軍の介入により潰されると最終的には労働者一人一人の自覚のもとでのストライキへ。畳み掛けるようにラストに持っていく様は非常に映画的だ。

一度映画化されているが、現代にもう一度映画化する意義は十分にあるだろうと思われる。この原作の中の、ワンカットワンカットを積み重ねる作り方や、群集シーンのモンタージュ理論の応用などはそのまま使えるだろう。惜しむらくはおそらく時代的制約もあったのだろう、最後のストライキの部分があまりにもあっさりとしているので、そこをきちんと描いてもらったなら、映画史に残るような力作になるかもしれない。描けるような監督はいるのだろうか。うーむ、それが問題だ。
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いま読んで新しい野上弥生子 : 野上弥生子短篇集 (岩波文庫)(本)

野上弥生子短篇集 (岩波文庫)
野上弥生子短篇集 (岩波文庫)(本)

野上 弥生子,加賀 乙彦,
発売日:1998/04

2008/5/29 くまベスト39レビュアー

5点

05年末に九州の旅をしとき、いまだ明治初期の面影が残る大分県臼杵の町を訪ねた。この町の造り酒屋の二階で古典に親しみながら、当時の最先端へ、東京への夢を膨らませていた15歳の少女は、1900年に上京し、ほぼ20世紀の末まで生きる。

この短編集を読んで驚いた。ひとつひとつの文章が全く古臭くないのだ。「明月」の発表は1942年1月だが、女友達が三人集まって打ち明けるとっておきの怖い話。「死」は1914年の作品。これも文章は「明月」と全く同じ現代文であり、現代人が読んで<注>を必要とするような所はなく、事実無い。

文体が新しいだけではない。作者の視線が現代的なのである。

「哀しき少年」は1935年(昭和10年)の作品。
小学生の隆は少し変わった少年だと思われていた。数学以外はなぜか勉強しようとしないのである。「僕いやなんだ。先生でたらめを教えるんだもの。」隆は思う。「修身ではいつも叱られているか、あてつけられている気がした。歴史でみんな楠木正行にならなければいけないと激励されると、隆は困ってしまった。彼には正成のようなお父さんはいなかったし、顔さえ覚えていないのだから。しかし手を上げてそういったら、睨みつけられた。」(147P)隆はその後中学に入り、軍事教練の授業から逃げだす。それだけの小説である。それだけだけど、そんな小説を1935年に書いていることに驚きを禁じえない。実は、読んでいるときはずーとこれは戦後の作品だと思っていた。
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昔はみんなそうだった : 蒲公英草紙―常野物語 (集英社文庫 お 48-5)(本)

2008/5/27 yassベスト36レビュアー

4点

かつて日本人が敏感だった頃、みんながそれぞれを助け合う能力を持っていた。そのうちにそれが忘れられ、一部の人たちだけが受け継ぐようになった。そして受け継いだために、定住することが許されなくなった。
そんな人たちが、みんなのために何かをすることが必要な世の中なのかも知れない。常世やニライカナイはユートピアではない。そこは古き良き日本の原風景なのかも知れない。
  1 人中、1 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

原作を少しデフォルメしてはいるが、現代にも通じる内容として漫画化している : 罪と罰 (まんがで読破)(本)

罪と罰 (まんがで読破)
罪と罰 (まんがで読破)(本)

ドストエフスキー,
発売日:2007/10

2008/5/25 ゴルゴ十三ベスト67レビュアー

4点

「非凡人(英雄)は凡人と違って、"正義"のためなら何をやっても許される」という考えに取り憑かれて、一線を越えてしまった男の待ち受ける運命とは?
「罪と罰」の原作をどんなに圧縮しても1冊の漫画には出来ないでしょう。ですので、多少のデフォルメはあってしかるべきであり、一冊読み通して流れが自然であれば、そのデフォルメは成功と言うべきです。(原作を既に読んだ人にとっては違和感があるでしょうけど...) 本漫画は「罪と罰」のエッセンスは残っていますし(登場人物・時代・舞台はそのまま、話の大筋も大体同じ)、格差社会・終わりなき戦争で混沌とした現代(主要国)にも十分通じる内容も持たせているので、漫画化としては上出来ではないかと思います。(最後に主人公が見る悪夢は、現代に通じるようにかなりアレンジされていますが、ドストエフスキー氏が生きていたら、ひょっとしたらこんな感じにアレンジしたかもしれません。かなり衝撃的です) 本書は「原作を読んでみよう」という気を起こさせる十分なインパクトを持っていますので、オススメできます。本作で筋書きを知っていたとしても、原作は(類似点・相違点に注意しながら)面白く読み進めることが出来ます。大体の筋が頭の中に入っていると、初心者には難解な原作を読み通し易くなりますね。(原作を読む時に人物・場面をイメージし易くなっています)
自分自身を「現代のナポレオン」気取りしている世界の政治家(→実は「現代のヒトラー」かも?)にも本書の翻訳をオススメしたいところです。"愛読書は子供の絵本"と答えた何処ぞの国のトップでも、漫画なら読めるでしょうからね...(苦笑)
  6 人中、5 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

全読書人必読と言っていい壮大な法螺話の面白さ。 : アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)(本)

アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)
アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)(本)

古川 日出男,
発売日:2001/12

2008/5/24 hide-bonベスト65レビュアー

5点

以前「月刊プレイボーイ」誌が、「ミステリー徹夜本を探せ」との何とも魅惑的な特集を組んだ際、北上次郎、大森望、豊崎由美の当代きっての凄腕書評家3人に、爆笑問題の太田光がこぞって最高位に挙げていたのが今作、ずっと気になっていたのだが、ようやくこの度読了した。そして、これは評判通りの途方もなく壮大な作品だった。
謀術、眩惑、魁偉、豪胆、妖艶、爛熟、恐怖、幻想、浪漫、正に血湧き肉踊る疾風怒濤の650ページ。その本、古今東西稀代のまたとない玄妙驚異の内容を備えた、たちまち読み手を虜にする物語と文中形容されるに相応しい1冊。
プロローグで語られるナポレオン東征に対抗する奇妙奇天烈な企みが果たして何なのか、それを知るだけで、読書好きなら興味津々になる事請負なのだ。
古川日出男が仕掛けた現代版千夜一夜物語といった趣。好き嫌いはあると思うが、読み続ける事が辛くなる頃合で小休止し、息をつきつつ、壮大な法螺話に身を任せたい。
ミステリーのカテゴリーに入るかどうかは微妙だが、エキゾチックなムードや冒険小説がお好きな方には是非お薦めしたい。
  3 人中、2 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

年を取るのも悪くない : 一瞬でいい(本)

一瞬でいい
一瞬でいい(本)

唯川 恵,
発売日:2007/07/20

2008/5/22 夢追い虫ベスト88レビュアー

4点

浅間山への登山の途中、仲間の1人が事故死。
恋に青春に、そして夢に一番輝いていた時期に起こったその悲劇は
残された3人の人生に大きな影を落とす。
「もし自分があの時・・・」とやり場のない後悔を抱えて生きることになる3人。
この物語は残された3人の31年間を描きます。

贖罪・・・。
3人は恋なんて言葉では片づけられないほどのつながりをもつ。
大切な人を亡くすと、楽しさや喜びさえも悲しみにつながる。
人生の喜びのすべてに対して後ろめたさを抱く。
けど、3人の生き方、私は間違っているとは思わないし、むしろ好き。
最後は嫉妬も遠慮もなく、思うがままの選択をできるほどになった3人はすがすがしい。
年を取らないとわからないこと、選べないこともある。
年を重ねるのも悪くはないと思える作品だった。
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