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新書・文庫

なかなか楽しい : 黒体と量子猫 1 (1) (ハヤカワ文庫 NF 323 〈数理を愉しむ〉シリーズ)(本)

2008/6/23 voodootalkベスト8レビュアー

4点

邦訳は2007年6月20日リリース。<数理を愉しむ>シリーズの一冊。筆者はサイエンス・ライターでAPS(アメリカ物理学会)の会員向けに会報誌の編集を手がけている人だ。

この本の特徴は有名な小説や映画の場面を引き合いに出しながら、物理史上の有名な出来事を解説してくれるところにある。たとえば『アダムス・ファミリー2』でウェンスディとパグズリーが赤ん坊と砲丸を屋根から落とすシーンがあるが、これをガリレオのピサの斜塔の伝説的な実験とひっかけて教えてくれる。なかなか楽しい。

ただ巻の1では『黒体と量子猫』とは何なのか、まで到達しない。答えは1935年のシュレーディンガーが登場する『2』まで待つ必要がある。
  4 人中、3 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

「答えのないものを考え続ける習慣が人間を強くする」 : プロ棋士の思考術 (PHP新書 531)(本)

プロ棋士の思考術 (PHP新書 531)
プロ棋士の思考術 (PHP新書 531)(本)

依田 紀基,
発売日:2008/06/14

2008/6/21 ゴルゴ十三ベスト67レビュアー

5点

囲碁・将棋の名棋士の著した"人生哲学本"は好んで読んでいます(※)。どの棋士も違った人生を送っているので違った表現にはなりますが、"充実した人生を送るための心構え"というものは極めて普遍的だなぁと気付かされます。そしてそれは勝負師の世界だけでなく他の分野(ビジネス、科学、...)でも十分通用する話だと思います。
本書からも、面白い人生法則を今までとは違った切り口で学ぶことが出来ました。小学校時代に「ほぼオール1」で劣等感の塊だった著者が、如何にして囲碁界のトップ棋士に登りつめるに至ったか、その波瀾万丈の半生を振り返りながら、その過程で体得した"人生観"が分かり易く書かれています。特に、大局観を磨き 勝ち続けるための「八つのK(感動、繰り返し、根本から考える、工夫を加える、感謝、健康、根気、虚仮(こけ)の一念)」は、けだし名言です。考えるプロならば、この言葉通りの人生を送っている筈です。ただ「勉強している」と思っているうちは本物ではなく、「感動に出逢っている」「心に沁みる」というレベルまで到達して本物、という訳です。また「碁には答えというものが用意されていない。(中略) しかし、答えのないものを考え続ける習慣が人間を強くする」という言葉は、人生や社会でも同じことが言えますね。他にも色々と面白い言葉が見つかりますので、探してみて下さい。私は著者の人生を変えた中村天風氏の著作にも当たってみようと思いました。

(※)「人間における勝負の研究」「人生一手の違い」「運を育てる」(米長邦雄)、「決断力」「簡単に、単純に考える」(羽生善治)、「人生、意気に感ず」(藤沢秀行)、「勉強の仕方−頭がよくなる秘密」(米長・羽生)、「戦いはこれからだ」(米長・藤沢)
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家族の絆を描いて、ほろ苦さと切なさが胸に迫ってくるタイムトラベル小説 : 地下鉄(メトロ)に乗って (講談社文庫)(本)

2008/6/20 ベスト78レビュアー

4点

 四十代半ばのサラリーマン、小沼真次(こぬま しんじ)が、地下鉄構内で何度かタイムスリップしながら、不仲な父の過去や三十年前に亡くなった兄の死の真相などを知っていくというストーリー。
 
 レトロな懐かしさを漂わせた話の雰囲気。失われていた父親と息子の心の絆が、徐々に再生していく話の展開。ほろ苦く、切ない味わいが、ツボを心得たストーリーテリングに乗って、じわじわっと心の中に迫ってくるところ。作者の初期の作品ですが、さすがに上手いもんだなあと堪能させられました。

 主人公が、地下鉄の駅の不思議な出口で、最初のタイムスリップを経験する件り。文庫本の39頁。その辺からですね、話にすーっと引き込まれていったのは。ノスタルジーとファンタジーとを掻き立てるその記述に、「あ。いいなあ」と。

 地下鉄通勤者のなかでも、特に、銀座線を利用する方々におすすめしたいタイムスリップ小説。次の文章なんか、実に素敵でぐっとくるじゃないですか。

<喪われた時代の哀しみと安らぎは、永久にこの小さな地下の世界に封じこめられている。これはサブウェイでも、アンダーグラウンドでも、メトロでもない。昭和二年からまっすぐに東京の闇を駆け抜けてきた「地下鉄」なのだと、真次は思った。(ちかてつ)、と胸の中に平仮名で書くと、おとぎ話のマッチのように哀しく暖かい灯が心にともった。>(文庫本 p.174〜175)
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この本を読んで一番感じたこと。そして今後を考えた場合…。 : なぜ日本人は学ばなくなったのか (講談社現代新書 1943) (講談社現代新書 1943)(本)

2008/6/18 生涯勉強。ベスト71レビュアー

5点

齋藤孝教授。…いったい、この人の出版した本は何冊なのか、そして全部読破したのはどのくらい居るのか…そういう意味でも興味深い、「とても文章に長けた」同世代のお一人ですね。頭が下がります。

今般は「学ぶ意欲こそ、生きる力であるのに…学ぼうとしないでひたすら受け身の快感にひたる若者」をまず取り上げ、「学ぶ意欲の復権、学ぶ構えの復権」を説いておられます。

今回の齋藤教授の本著を大雑把にまとめると以下の論点が挙げられ、これを若い人たちは改善すべき…そう考えていらっしゃる、僕はこのように理解致しました。

1)教師等に尊敬の念を抱いていた垂直社会が崩壊し、尊敬のない社会=水平社会、或いはインターネットの普及による情報のみを取得する社会への変化。これに対する警鐘。

2)「やさしさ=傷つきやすさ」、そして「濃い付き合いをしない若い世代」=「自分一人の自由を優先的に考える事へのすり替え」への警鐘。

3)「アメリカ化=60年代陶酔型ロック+麻薬+性の解放」=「情熱の欠如、そして教養への反発と無関心」。

4)「書生=修行=深交力」の完全な欠如。

5)「教養主義の欠落」(=自分自身を掘り下げて生きる「哲学」勉強の完全な欠如。)

6)上記の解決方法としての「他者との静かな対話である読書の勧め」。他方で「ガンダム至上主義への批判。J-POP 至上主義への警鐘。」

…非常に簡単にまとめてしまいましたが、以上でしょうか。

…かの美輪明宏さんも…また近著では東大の姜尚中教授も…更には発言はせずともビートたけしさんのご自身の姿勢からも「今の若者は読書をしていない!」ということは明確に答えられています。

僕は「読書から一番得られる事柄」は「自身とは異なった思考の人(現在の人、過去に生きていた人を含む。)の考え方を学び、それを自分なりに考察しながら自身の中に一部は溶け込ませ、一部は排除する事」ではないか、そう感じております。ただし、ロック・ミュージックについては齋藤孝教授とは少し異なり、「非常に自身のアイデンティティ確立に影響を受けたロック・ミュージックがあった!」事を敢えて挙げておきますが…。

一番危惧するのは…「深い、濃い付き合い方を本当にしていないなあ…!」と感じる人が相当数多い事でしょうか。こうした観点を考察するためにも、本著は是非通読してみて下さい。お薦めします。
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従前の歴史観にとらわれない新書 : 勘定奉行荻原重秀の生涯―新井白石が嫉妬した天才経済官僚 (集英社新書 385D)(本)

2008/6/18 アジアの息吹ベスト86レビュアー

5点

通貨史の観点から見ると、まさに先駆的な業績を残している
勘定奉行・荻原重秀。しかしその人となりを私は全く知らなかった。
新井白石によって「正しい日本史」から半ば排除されてきた、
その荻原重秀の生涯にスポットを当てたのが本書である。

当初は小説化を目論んでいたこともあって、
原資料に多くあたったことにより集められたパーソナルな情報、
並びに浮かび上がってきた死の謎など、
読み物としても一級品である。

著者は歴史家ではないと云うが、こうした従前の歴史観にとらわれない
新書の刊行を期待したい。
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"質実剛健"なランダウ流・量子力学:非相対的量子論から相対的量子論までを俯瞰 : 量子力学―ランダウ=リフシッツ物理学小教程 (ちくま学芸文庫―Math & Science (ラ5-2))(本)

量子力学―ランダウ=リフシッツ物理学小教程 (ちくま学芸文庫―Math & Science (ラ5-2))
量子力学―ランダウ=リフシッツ物理学小教程 (ちくま学芸文庫―Math & Science (ラ5-2))(本)

L.D.ランダウ,E.M.リフシッツ,好村 滋洋,井上 健男,
発売日:2008/06/10

2008/6/15 ゴルゴ十三ベスト67レビュアー

5点

ランダウ=リフシッツ物理学小教程の第2巻「量子力学」です。この一冊の文庫本(500頁余)で非相対論的量子論から相対論的量子論までを一気に俯瞰できる名著です。

【内容】
第1部 非相対論的理論(量子力学の基本概念;量子力学における保存則;シュレーディンガー方程式;摂動論;スピン;粒子の同等性;原子;2原子分子;弾性衝突;非弾性衝突)
第2部 相対論的理論(光子;ディラック方程式;粒子と反粒子;外場内の電子;輻射;ファインマン図形)
訳者あとがき、解説(江沢 洋)、索引

ランダウ御大にとっては「入門的内容」であるとしても、大学の物理学の素養がなければ多分難しく感じられる一冊でしょう。(第1巻「力学・場の理論」で触れられていた内容も出てきますので、対応箇所も併せて読むと良いでしょう) しかし量子力学を一通りこなした学生が本書を読むと新たな感動が得られることでしょう。つまり、山登りにおいて、同じ山を全く違う登坂ルートでアタックする時のような気分が味わえます。(本書の"登坂ルート"は急勾配を一気に駆け上がる感あり) 量子力学の理論的枠組みをまとめあげる"手際の良さ"にある種の感動すら覚えます。
他書と併せて読むと更に味わい深い本でもあります。例えば「(量子力学):(古典力学)=(波動光学):(幾何光学)」に関する議論は「量子論の発展史」(高林武彦)の第8章(「(シュレディンガー方程式):(ハミルトン・ヤコービ方程式)=(ヘルムホルツ方程式):(アイコナール方程式)」の記述)を併読すると良いでしょう。こうして「h→0における量子論→古典論の極限」に関する議論を深く理解することが出来ます。余裕があれば朝永振一郎先生の「量子力学」「スピンはめぐる」と比較しながら読むと更に面白いことでしょう。
後は【物理学大教程シリーズ】の全巻復刊を待ち望むばかりです。。。
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自分が正当化されたような気がする : 悩む力 (集英社新書 444C)(本)

悩む力 (集英社新書 444C)
悩む力 (集英社新書 444C)(本)

姜尚中,
発売日:2008/05/16

2008/6/15 mbookdiaryベスト48レビュアー

4点

実際、自分と正面から向き合い悩み続けるというのはとても大変な作業だと思う。私の場合、20代前半まではその戦いから逃げ出すことができず、常にその問題を解決することを優先事項にして生きてきた。幸い、絶望感を抱えつつも危ういバランスを保ちながら生きつづける事ができた。20代後半になり、少し生きることに慣れ小賢しくなり、そういうことから目を背けて快適に生きることができるようになった。しかし、このままうまくいって経済的に豊かになり生活が楽になっても、このままだとむなしさが残ると感じている。もちろん、生活があるのだからこの問題だけを考え続けるのは難しい。しかし、だからといって全て捨ててしまうということはできない。

89ページに、「脱色されて乾いた青春」という見出しの章がある。この問題から目を背け、上手に生きていくと、大切なものを置き忘れてしまうのとになるのではないかと。。。

数時間前に読み終えた、梅田望夫氏と齋藤孝氏の対談「私塾のすすめ」にも同じように問いかける部分があった。両氏は10年以上この混沌とした悩みに向き合い続けていたという。

伝統的な慣習と信仰心が近代的な合理主義によって崩壊させられ、人々は分断され、変化し続ける時代に、信ずるべき普遍的なものを失ってさ迷っている。そういう現代を夏目漱石とマックス・ウェーバーがぶち当たった問題と重ね合わせて謎解きをしてゆく。「まじめに悩みぬく」そこにその人なりの解答があると著者は信じる。

悩みぬいた末に横着になるというのも面白い。論語の「七十而從心所欲(70歳にして自分の思うままに行動しても人道を外れない)」を意識しているのかもしれないけれど、横着にハーレー・ダビッドソンに乗りどくろマークのジャケットを着て金正日の頭をコツッとやってもいいんじゃないかというのはよかった。このくらいの吹っ切れは人生を価値あるものに感じさせてくれる。

あー、こういう感覚が好きだったんだなぁと思い出した。
  2 人中、2 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

レトリックが全て : 愚か者死すべし (ハヤカワ文庫 JA ハ 4-7)(本)

2008/6/14 voodootalkベスト8レビュアー

4点

オリジナルは2004年11月リリース。前作『さらば長き眠り』からおよそ9年空いた新作である。この新作の登場には早川書房社長の早川浩の力が大きかったようだ。

読み出すと久しぶりの沢崎の言い回しが懐かしく、それだけでかなり満足できてしまう自分に気がつく。つまり原作品のキモはストーリーではなく、沢崎の独特な(人はこれをハードボイルドと呼ぶわけだが・・・)レトリックにある、ということだろう。9年以上の作品は頻繁に登場する電話のシーンも公衆電話ばかりで、それが作品を古い感じのものにしてしまっていたが、本作ではついに『携帯電話』が登場する。よかった。

ストーリーははっきり言って大して驚かないし、面白いとも正直思わないが、沢崎の態度や言い回しを読んでいるだけで惹かれていく。最後のあとがきの沢崎の確定申告の場面などハードボイルドそのものである。なかなかだ。
  4 人中、3 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

さすがにストーリーテリングがすばらしい : 長い長い殺人 (光文社文庫)(本)

長い長い殺人 (光文社文庫)
長い長い殺人 (光文社文庫)(本)

宮部 みゆき,
発売日:1999/06

2008/6/12 佐倉ごるふベスト18レビュアー

4点

財布が語っていく構成は、斬新。
宮部氏の作品には、結構、こういう、「直接的には
読者には、みせないで、語りで想像力をかきたてる」という、
手法があって、そこが一層、好奇心をかきたてられて、どんどん読んでいく
うちに・・という、カタルシス的構成が、結構、利いている。

登場人物の心の「ひだ」を、ときどき、ドキッとさせる語り口調、
台詞で、思わず、涙が出そうなくらい(だけど、ぐっとこらえて読み進める)
なシーンが、今回も、随所に。

最後の「落ち」は、論理的な本格推理を期待すると、少々肩透かし
ですが、後の社会派的な作品「理由」「火車」「模倣犯」を考えると、
こういう展開も「あり」かもしれません。

とにかく、最初は「財布がしゃべる?」と、とまどいぎみに読み始める
のですが、そのうち、気にならなくなり、そして、まったく、そんな
設定を忘れてしまうラスト。ぐいぐいと引っ張っていき、徹夜覚悟な
佳作です。人物関係がワタシには、ちょっとわかりにくかったかな。
  2 人中、2 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

エピローグの日記は秀逸 : 深海のYrr 上 (1) (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)(本)

深海のYrr 上 (1) (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)
深海のYrr 上 (1) (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)(本)

フランク・シェッツィング,
発売日:2008/04

2008/6/12 vatmideoベスト76レビュアー

5点

読了まで6日かかりました。
上巻は冒険小説、中巻は謎解き、下巻は収束といったところでしょうか。
他の人の感想を読むと、中巻でへこたれているようですが、理解するにはDNAや蛋白の機能などの生物学の知識がないとしんどいかもしれません。かなり平易には書いているのですが。
日本人には衝撃度は少ないでしょうが、キリスト教圏の人にはきつい小説でしょうね。そのショッキングな内容をまとめたエピローグの日記は秀逸でした。
  4 人中、3 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

猫......... : 猫と庄造と二人のおんな (新潮文庫)(本)

猫と庄造と二人のおんな (新潮文庫)
猫と庄造と二人のおんな (新潮文庫)(本)

谷崎 潤一郎,
発売日:1951/08

2008/6/8 recluseベスト66レビュアー

4点

doris lessingにも猫を題材にしたエッセイや作品がいくつかありましたが、猫に魅入られた作家が描く猫の描写はいつも似てくるようです。犬と比較しての猫の非社会性や冷淡さが世間では流通していますが、このような作家による描写は猫それぞれの個性や優しさや思いやりを指摘する点で共通するものがあります。ただこの作品のテーマが、猫を中心として猫の目から見た人間関係の描写と風刺かというと、そうとは言い切れないようです。猫自身は決して独白することなく、猫の様々な行動もこの作品の登場人物である人間のそれぞれの立場から見て状況的に解釈されていきます。猫はあくまでも登場人物の時々の心理を投影した存在のままで、猫の「独善」の本質的な秘密の根源は最後まで不可解なままです。そして作品に落ちはありません。この作品のもうひとつの秘密は関西弁がかもし出す独特の雰囲気です。外来種の猫と関西弁という二つはなんともいえない融合を示しています。今回一部会話の部分を音読しながら読んでみましたが、この関西弁ははたして本当の関西弁なのでしょうか。本来共存し得ないであろう、細かい差異を持つ様々な関西弁の人工的な混合物、つまり作者が新しく自分のイメージの中で作り上げたどこにも現実には存在しない道具と手段としての「関西弁」の印象がぬぐえません。
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相似と相違 : 私塾のすすめ ─ここから創造が生まれる (ちくま新書 (723))(本)

2008/6/7 くにたち蟄居日記ベスト32レビュアー

5点

 今にときめく二人の対談集である。奇しくも同じ年に生まれた二人の相似と相異が微妙に出ている点が読んでいて勉強になった。

 「相異」について。
 斎藤はネットに関して積極的ではないとはっきりと発言している。梅田が ある種「ネットの伝道師」であるのとは対照的だ。このネットへの違和感を明言する点に 今回の斎藤の戦略があると言えるのではないかと思う。
 考えてみると 柔道の中興の祖である嘉納を尊敬する人にあげ 日本の古典を音読することを主張する斎藤だ。106頁で斎藤が「わざと鈍い刀を使いながら生きていく」と言っているのは 徒然草の「よい工は少し鈍き刀を使う」を踏まえたひと言だと思う。斎藤にとっては ネットとは「切れすぎる刀」なのかもしれない。

 「相似」について
 上記で「相違」をあげたが それはある意味では「道具」の話であり その「道具」でやろとしている「目的」に関しては よく似ている。
 両者ともに 「教育のあり方」という点に徹底的にこだわっている点が見て取れる。斎藤自身は 教育を全面に出して活躍しているわけだが 梅田は第一義的には「教育」を専門としているわけではない。但し 梅田の「教育者」としての資質が 彼をここまで引き上げていることも確かだ。

 僕は梅田を「伝道師」と呼んだ。彼の資質は「陽気なアジテーター」であるというのが僕の基本的な理解だ。アジテートとするには アジテートする内容が必要だが それ以上にアジテートすることへの資質が必要だ。梅田は「内容」も当然ながら そのアジテートする資質に恵まれている。アジテートとは一種の「教育」であることは間違いない。


 このように相似と相違を楽しんでいるうちに あっというまに読了してしまった。
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驚きの本です : がん治療の常識・非常識 (ブルーバックス (B-1597))(本)

2008/6/5 Notre Dameベスト61レビュアー

5点

 昨今、「癌は治る病気」と言われて久しいですが、実のところ40年前から生存率は延びていない等の驚きの言葉が並びます。著者は読売新聞社で「医療ルネサンス」を担当して、綿密な取材の基に書かれています。抗癌剤がたったの4週間の生存期間の延長だけで認可されたりするなど驚きの連続です。また、抗癌剤は効かないのがおおいのや、手術しなくて良い癌と悪い癌、放射線治療にも触れられており、癌に対する知識が深まります。専門書では無いので、ブルーバックスの特徴を活かしただれでも気軽に最先端の知識を得られるところが共感を呼びます。今後、益々増えるであろう癌に対し、正しい知識を与えてくる恰好の本だと思います。分量、中身とも最適になっています。
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超能力者たちの孤独感と同朋意識が生き生きと、スリリングに描き出されている : 七瀬ふたたび (新潮文庫)(本)

七瀬ふたたび (新潮文庫)
七瀬ふたたび (新潮文庫)(本)

筒井 康隆,
発売日:1978/12

2008/6/2 ベスト78レビュアー

4点

 他人の心を読むことのできる精神感応能力者(テレパス)、火田七瀬(ひだ ななせ)を主人公にした三部作、『家族八景』『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』。その第二部にあたるのが本書『七瀬ふたたび』で、七瀬のような超能力を持つ人間の孤独感と同胞意識、彼らを抹殺しようとする国家権力と超能力者たちとの戦いが描かれています。

 七瀬サイドに立つ超能力者として、同じ精神感応能力を持つ男の子、未来を予知できる青年、物体を遠隔操作できる念動力(サイコキネシス)を持つ黒人青年、時間旅行者(タイム・トラベラー)の娘の、総勢五名。特異な能力を持つが故の彼らの孤独感と葛藤、互いに心を許し合える同胞にめぐり会った喜びがリアルに描き出されていて、スリリングな緊迫感がありましたね。なかでも、時間旅行者という超能力者を登場させたことが、話に変化と深みを生み出す上でバツグンの効果を発揮しているなあと思いました。

 <とてもいい書き出しだ。夜汽車で火田七瀬の見た予知場面なのだな、と気づいたとたん――それは最初のページで気づくのであるが――スイと作品の流れに乗っていける。>にはじまる平岡正明の文庫解説文も、作品のツボを押さえたナイスな語り口。読みごたえ、あります。
  4 人中、2 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

おもしろ落語ミステリ : ハナシがちがう!―笑酔亭梅寿謎解噺 (集英社文庫)(本)

2008/6/2 ピエロベスト99レビュアー

4点

『UMAハンター馬子』や『銀河帝国の弘法も筆の誤り』等のSF作品を読んで、すっかり田中啓文のファンになったのですが、作者のミステリは初めて、果たしてどんなもんだろうと読み始めたのですが・・・。登場する人物たちの造形、彼らの小気味よい関西弁での会話などなど、ミステリとしての出来はもちろんのこと、とても楽しく読めました。

上方落語の大看板、笑酔亭梅寿のもとへむりやり弟子入りさせられた不良少年の竜二。この梅寿師匠、芸は一流だが大酒飲みで暴力はふるうは口は悪いはの、とんでもない人物。彼らの周りで起きる事件を解決していく竜二だったが、考えることは逃げ出すことばかり。しかしそのうち、落語のおもしろさに魅せられていき・・・、といった内容の短編七作が納められています。

私は落語が好きなので特におもしろく読めましたが、興味が無いという人でも、あらすじからウンチクまでが書かれているのですんなりと読み進めることができると思います。で、本書を読んで落語にちょっとでも興味を持ったという方は、ぜひ寄席へ足を運んでみてはいかが?
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of all the theatres probably No makes the greatest demands on the audience : 能・文楽・歌舞伎 (講談社学術文庫)(本)

能・文楽・歌舞伎 (講談社学術文庫)
能・文楽・歌舞伎 (講談社学術文庫)(本)

ドナルド キーン,
発売日:2001/05

2008/6/1 recluseベスト66レビュアー

4点

実はまだ能の部分しか読んでいません。ただ素晴らしい作品です。能という日本の古典芸術の理解に外人の書いた解説書を読まなければいけないという現状には苦笑してしまいますが。もっと悲しいのは、no begins with a mask, and within the mask the presence of godで始まる英語の原文を読んだ方が、翻訳で読んだ場合より、もっと感銘を受けてしまうというこの逆説です。この見事な能の解説への導入を読んでください。きびきびした明晰な英語で、西欧演劇の共通のターミノロジーを使いながらその比較の射程を広げながら、しかも著者の情熱を伝える英文で、能への魅力へと読者を誘います。もう私のような古い日本人ですら、西欧から導入された分析の道具を借りずには、能を能として味わうことはできないほど、私たちは変質してしまったのかという疑問を投げかける作品でもあります?海外のギリシャ悲劇との比較という構図の中で提示された方がよりよく能に接近できるという発見は驚きでもあり幻滅でもあります。しかし、この作品の本質的な価値からはなれた部分で、個人の勝手な思い込みでコメントされるのは、著者にとっては心外でしょう。さて、見事な導入部に続き、その後は能の詳細な解説が展開されます。特にわかりやすいのは能と狂言の歴史です。そしてそこに留まることなく、能面、能楽師の養成、音楽、舞台装置、小道具へと解明は進められます。後半のディテールは素人の私にはついていけないほどです。もともとは外人向けに書かれた作品でしたが、日本人にとっても必携の作品となってしまったのは、作品の持つ不思議な意図しない運命です。
  3 人中、3 人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

果たして未来は変更可能なのか、それは読者に託される : フラッシュフォワード (ハヤカワ文庫SF)(本)

フラッシュフォワード (ハヤカワ文庫SF)
フラッシュフォワード (ハヤカワ文庫SF)(本)

ロバート・J. ソウヤー,
発売日:2001/01

2008/5/30 yukkiebeerNo.1レビュアー

5点


 2009年4月、ヨーロッパ素粒子研究所(CERN)で、ある大規模な実験が行なわれる。その瞬間に全世界の人々の意識が数分間だけ21年後の未来へと飛んでしまう。
 研究所の科学者であるロイドは、今の婚約者ミチコとは似ても似つかぬ女性との未来の生活を目の当たりにした。ミチコはといえば、今はまだ生まれていない自分の子どもをみつめている自分を発見する。
 一方、ロイドの同僚であるテオは、何ひとつ未来の自分を目にすることはなかった。それは21年後のその瞬間の直前に、彼が何者かによって殺害されていたからだった…。

 未来の自分をほんの一瞬だけ見てしまったとき、そしてそれが決して自分が期待するようなものではないと分かったときに、ひとはどういう行動に出るのでしょうか。
 未来は固定されて決して取り替えがきかないものであるのだから、これからの努力が実ることは決してないと諦念を抱くのか。
 それとも目にした未来はひとつの可能性でしかなく、これらからの行動次第でいくらでも変更がきくのだと考えて、より良い未来を志向して努力を継続するのか。

 タイム・トラベルSFではタイム・パラドクスをいかにキレイに整理できるかということが常に課題となりますが、このSF小説ではそれはあまり大きな問題ではないような気がします。
 むしろ、「諦念」と「努力」のはざまで、登場人物とともに読者自身がどちらを選択するべきなのか、その解を求めることこそが一番の課題のような気がします。
 
 ロイドとテオという主要人物二人に対して作者のロバート・J・ソウヤーは、「諦念」と「努力」それぞれにふさわしい結末を与えます。それを読んだときに何かが自分の中で生まれる気がする、そんな物語として私は十分堪能することができました。一気呵成に読めるエンターテインメント小説ですが、それだけのものとするには惜しい気がする一冊です。
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いま読んで新しい野上弥生子 : 野上弥生子短篇集 (岩波文庫)(本)

野上弥生子短篇集 (岩波文庫)
野上弥生子短篇集 (岩波文庫)(本)

野上 弥生子,加賀 乙彦,
発売日:1998/04

2008/5/29 くまベスト39レビュアー

5点

05年末に九州の旅をしとき、いまだ明治初期の面影が残る大分県臼杵の町を訪ねた。この町の造り酒屋の二階で古典に親しみながら、当時の最先端へ、東京への夢を膨らませていた15歳の少女は、1900年に上京し、ほぼ20世紀の末まで生きる。

この短編集を読んで驚いた。ひとつひとつの文章が全く古臭くないのだ。「明月」の発表は1942年1月だが、女友達が三人集まって打ち明けるとっておきの怖い話。「死」は1914年の作品。これも文章は「明月」と全く同じ現代文であり、現代人が読んで<注>を必要とするような所はなく、事実無い。

文体が新しいだけではない。作者の視線が現代的なのである。

「哀しき少年」は1935年(昭和10年)の作品。
小学生の隆は少し変わった少年だと思われていた。数学以外はなぜか勉強しようとしないのである。「僕いやなんだ。先生でたらめを教えるんだもの。」隆は思う。「修身ではいつも叱られているか、あてつけられている気がした。歴史でみんな楠木正行にならなければいけないと激励されると、隆は困ってしまった。彼には正成のようなお父さんはいなかったし、顔さえ覚えていないのだから。しかし手を上げてそういったら、睨みつけられた。」(147P)隆はその後中学に入り、軍事教練の授業から逃げだす。それだけの小説である。それだけだけど、そんな小説を1935年に書いていることに驚きを禁じえない。実は、読んでいるときはずーとこれは戦後の作品だと思っていた。
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不思議で、心揺さぶる作品でした。 : 夜市 (角川ホラー文庫 つ 1-1)(本)

夜市 (角川ホラー文庫 つ 1-1)
夜市 (角川ホラー文庫 つ 1-1)(本)

恒川 光太郎,
発売日:2008/05/24

2008/5/28 lemonerikaベスト10レビュアー

4点

「夜市」「風の古道」の2編です。

両方とも、不思議な話です。
どことも分からない場所で、妖怪なども参加し行われる「夜市」。
そこでは、何でも売っている。迷い込んだ大学生のカップル。実は・・・

普通の人には見えない道に迷い込んだ少年たちを描く「風の古道」。
そこで出会った人は、実は・・・。

両方の話も、「心揺さぶる」ストーリーであり、結末でした。
不思議で、なんとなくノスタルジーを誘う舞台で、
人の純粋な気持ち、が描かれているような本です。

「怖い」とか「気持ち悪い」とかは、ほとんどないですが、、
その分、別の感情に包まれていきました。

ストーリーも登場人物も、文体・調子も、「上手くできてるなぁ。。」
と「心揺さぶられた」後に、しみじみ感じ入る作品でした。
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未来を見通す力 : アリランの歌―ある朝鮮人革命家の生涯 (岩波文庫)(本)

アリランの歌―ある朝鮮人革命家の生涯 (岩波文庫)
アリランの歌―ある朝鮮人革命家の生涯 (岩波文庫)(本)

ニム ウェールズ,キム サン,
発売日:1987/08

2008/5/28 くまベスト39レビュアー

5点

1937年の夏の初め、アメリカの女性ジャーナリスト、ニム・ウェールズ(「中国の赤い星」のエドガー・スノーの妻)は、延安でひとりの朝鮮人に会う。魯迅図書館で英文書籍借り出し人の名簿を繰った時に、ひとりの突出した濫読家を見つけたのだ。金山(キム・サン)と名乗る彼は知性あふれる青年であったが、写真を見る限りではひどく痩せており一種の老師の風貌さえたたえている。(32歳だという!)ウェールズは彼が軍政大学の教師と言うのは仮の姿で中国共産党員であることを見抜き、伝記を書かせてほしいと頼む。そんなときに盧溝橋事件が勃発する。

その7月7日、ウェールズは「日本と中国の全面戦争が始まるのか、まだ妥協と和平の道があるのか」道が見えないまま、キム・サンに聞く。「戦争は避けられません。とうとう来たのだと思います。今度の事件で戦争にならなくても、次かその次の機会には始まります。日本は経済的帝国主義の緩慢なプランを実施するだけの資金的余裕がないから、軍隊を使って強盗式戦術を取り、軍事行政両面での徹底した強奪をやらねばならない。財政面が弱いので、中国と経済的な提携関係を築くことは出来ない、中国を安全に搾取しようと思ったら、先ずその力を潰しておかなくてはならないというわけです。」
彼はいうなれば、無名の知識人の一人に過ぎない。その彼が、当時のアジア情勢についてはおそらく世界最高水準の客観情勢を語っているのだ。当時の蒋介石の中国国民政府と中国共産党は敵対関係にあった。しかし彼は明確に日本と蒋介石が手を結ぶことは無いと分析していた。

未来を見通す力はどこから来るのか、そのひとつの秘密がここにある。

やがてキム・サン(これは偽名である。ついに彼はウェールズにも明かす事はなかった。)は、自らの波乱万丈の半生を語りだす。
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